知能に関する思考実験

Alexander D. Wissner-Gross博士による、知能とは何かに関するTEDスピーチについてのメモ。

博士は、宇宙論から囲碁からロボット工学に至るまで、様々な分野に共通する知能の単一の法則を見い出すプロジェクトを実施した。

知能とは“将来の行動の自由度を最大化する物理的メカニズム”である、というのが博士の結論である。

※原典は下記論文:
Wissner-Gross, A. D.  and C. E. Freer, 2013, Causal Entropic Forces, Physical Review Letters 110, 168702, DOI: 10.1103/PhysRevLett.110.168702.

博士によると、このように定義される知能は、エントロピー法則との間に驚くべき関係性を有する。知能はエントロピー法則から発生しているというのだ。

博士は、システム内のエントロピーを長期的に最大化するEnthropicaというソフトウェアを開発し、それを使って様々なタスクの解決を試みた。驚くべきことに、Enthropicaは、直立二足歩行する、道具を使う、協力する、ピンポンゲームをする、社会ネットワークを広げる、パナマ運河を利用して太平洋に到達する、株式の売買で儲ける、といったタスクを自律的にこなしていった。

 

博士が発見した法則自体も、そしてその適用範囲の広さもとても興味深いが、加えて「知能の一般方程式は何か」という博士の問いの立て方も非常に示唆的だった。

僕の知る限り、知能についての探求は、知覚、認識、学習、記憶、意思伝達、適応といった、我々が経験的に知能の構成要素と考える現象の理解からスタートするのが常道のように思う。

しかし博士は、あえて知能についての我々の通念を捨て去るところからスタートする。このことは、問いを立てる過程で彼が行った以下のような思考実験に顕著に表れている。

あなたは宇宙人であるとする。あなたは、極めて長い寿命と驚くべき性能を持った望遠鏡を持ち、何十億年もの間、地球を遠い宇宙から観察できる。しかし、あなたは地球の生態系や神経科学や知性について何一つ知らない。

あなたはとても奇妙な現象を目撃する。ある時点まで、地球は隕石の絶え間ない衝突に見舞われてきた。しかしある時点から、衝突軌道にあるはずの隕石が勝手に逸れていったり、衝突前に爆発したりするようになる。

もちろん、地球人は理由を知っている。

しかし地球上の知性について何一つ知らない宇宙人は、物理的な理論によってこの現象を理解しようとするだろう。

博士は、これこそが、知能の物理的メカニズムを理解しようとする行為に等しいとして思考を進める。その結果、彼は認識や学習のメカニズムの解明といった知能研究の常道を飛び越え、知能の根源的な方程式とは何かという野心的な問いを立てるに至る。

社会科学者にとっては目の覚めるような極めて物理学的な問いの立て方だが、同時に、黎明期に力学から理論を援用した近代経済学の思考とも親和的なように感じた。