法然院と椿

法然院の特別拝観に出かけてきた。

京都もようやく桜が咲き始め、観光客もぐっと増えたが、今日のお目当ては桜ではなく、椿である。

 

法然院は、銀閣寺の南、鹿ヶ谷に佇む浄土宗の寺。

鎌倉時代の初め、この鹿ヶ谷の草庵で、法然上人が弟子の安楽・住蓮とともに、念佛三昧の別行を修し、六時礼讃を唱えた。ところが、後鳥羽上皇の女房松虫・鈴虫が安楽・住蓮を慕って出家し上皇の逆鱗に触れるという事件が生じ、上人は讃岐国へ流罪、安楽・住蓮は死罪となり、その後草庵は久しく荒廃する。江戸時代初期の1680年(延宝8)、知恩院第三十八世萬無和尚が、上人ゆかりの地に道場を建立することを発願し、弟子の忍澂和尚によって、現在の伽藍の基礎が築かれた。

 

伽藍の一般公開は、春と秋に年2回だけ行われる。

桜哲学の道から少し坂道を登ったところに、山門が見えてくる。桜の季節の喧噪とは対照的な、静かに時を刻む佇まい。

 

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寺を訪れる檀家さん向けなのか、本堂の憩いの部屋の本棚には、歴史書から美術書までたくさんの本が納められていた。観光客向けではない、普段着の寺の姿がうかがわれる。

伏見にあった後西天皇の皇女の御殿を移建したという方丈には、狩野光信筆の襖絵(重文・桃山時代)が納められている。庭園の縁側に腰掛けると、善気山の木々を揺らす清廉なざわめきが心を癒す。

茶室に向かう途中の十畳ほどの間では、雲間から現れた巨大な龍が三方の襖を囲む。江戸後期に活躍した琢眼という絵師の描いた作品だそうだが、空中で龍神に遭遇したかのような迫力で気に入った。

 

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しかし、春の拝観の楽しみは何と言っても椿だ。特に本堂北側の中庭に植わった三銘椿(五色散り椿・貴椿・花笠椿)は見事。弱々しい春の日差しに照らされ、凛とした美の空間が浮かび上がる。整えられた砂利には紅白の落ち椿が散りばめられ、自然の采配、偶然の美に息をのむ。

 

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「赤い椿 白い椿と 落ちにけり」――河東碧梧桐

考えてみると、これまで椿をまともに 愛でたことがあまりなかった。色なき初春の静止した空気の中、儚く落ちる椿を愛でる気持ちが、少しだけわかった気がした。

 

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